リンディホップとジャイブ

スイングダンスの二つの潮流

リンディホップとジャイブの比較と日本での発展

概要

リンディホップとジャイブは、アメリカのアフリカ系アメリカ人コミュニティを起源とするエネルギッシュなペアダンスであり、それぞれ異なる歴史的背景と特徴を持ちながら、現代において日本を含む世界中で愛好されています。

リンディホップは、1920年代後半にニューヨークのハーレムで誕生し、スイングジャズの隆盛と共に発展しました。チャールストンなどの先行ダンスの影響を受け、自由な即興性とパートナーとの弾力的なつながりを特徴とします。一時衰退しましたが、1980年代のリバイバルを経て、現在では世界中のソーシャルダンスシーンで重要な位置を占めています。日本では1998年に上陸し、日本スイングダンス協会などが普及に努め、全国でイベントやレッスンが開催されています。

ジャイブは1930年代初頭にアメリカで、リンディホップやジッタバグといったスイングダンスから派生しました。活発で弾むような動きが特徴で、1968年には競技社交ダンスのインターナショナルラテン種目の一つとして標準化され、国際的な舞台で踊られています。日本では「モダンジャイブ」として親しまれ、「ジャイブ・モーション」などがレッスンやイベントを提供しています。また、エクササイズとしての「Jiveeee(ジャイビー)」も登場し、現役ダンサーがその魅力を伝えています。

本レポートでは、これら二つのダンスの歴史的発展、主要な特徴、そして日本における現状とコミュニティ活動について、詳細に比較・分析します。

1. リンディホップの起源と歴史

導入:ハーレムの熱狂から世界へ

リンディホップは、1928年にニューヨークのハーレムで生まれたアフリカ系アメリカ人のダンスです。ハーレム・ルネッサンス期の活気ある文化の中で、当時のジャズ音楽に合わせて人々が自由に踊り始めたことが起源とされています。名前は、飛行家チャールズ・リンドバーグの大西洋単独無着陸飛行成功時の新聞見出し「Lindy’s hop」に由来すると言われています。

歴史的背景と発展

リンディホップは、チャールストン、ブレイクアウェイ、テキサス・トミー、ケーキウォーク、ジャズダンス、タップダンスなど、様々なダンスの要素を取り入れて進化しました。1920年代後半から1930年代初頭にかけてジャズ音楽の変化と共に発展しました。

  • サヴォイ・ボールルームの影響: ハーレムのサヴォイ・ボールルームは、リンディホップ発展の中心でした。人種差別が厳しかった時代に、アフリカ系アメリカ人と白人ダンサーが共に踊り、互いに影響を与え合う数少ない場所でした。ここから、ジョージ・”ショーティ”・スノーデンやフランキー・マニングといった伝説的なダンサーが生まれ、ダンスの技術とスタイルを確立しました。
  • ホワイトリーのリンディホッパーズ: 1930年代後半から1940年代前半にかけて、ホワイトリーのリンディホッパーズのようなプロダンスグループがハリウッド映画に出演し、特に「ヘルザポッピン」(1941年)でのパフォーマンスは、リンディホップを世界中に知らしめるきっかけとなりました。彼らのアクロバティックな「エアリアル」や華麗なフットワークは観客を魅了しました。
  • 衰退とリバイバル: 第二次世界大戦後、ロックンロールなどの新しい音楽ジャンルの登場により、リンディホップは一時人気を失いました。しかし、1980年代にアメリカ、スウェーデン、イギリスのダンサーたちによってリバイバル運動が起こり、世界中で再び注目されるようになりました。現在、コミュニティは北米、南米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなどグローバルに広がっています。

技術用語解説

  • スイングジャズ: 1930年代から1940年代に流行したジャズの一種で、ビッグバンドによる躍動的なリズムと即興演奏が特徴。リンディホップはこの音楽に合わせて踊られます。
  • ブレイクアウェイ: パートナーとの密接な状態から一時的に離れて個別のステップを踏む動きで、リンディホップの「スイングアウト」の原型となったダンスムーブメントです。
  • サヴォイ・ボールルーム: 1920年代から1950年代にかけてニューヨークのハーレムにあった伝説的なダンスホールで、リンディホップ発祥の地として知られています。

2. ジャイブの起源と歴史

導入:スイングの進化形から競技の舞台へ

ジャイブは、1930年代初頭にアメリカのアフリカ系アメリカ人コミュニティで生まれた、活発でエネルギッシュなペアダンスです。リンディホップやジッタバグといった初期のスイングダンスから派生し、その独特のリズムと動きで多くの人々を魅了してきました。

歴史的背景と発展

ジャイブの名称は、もともと「欺くような話し方」や「ふざける」といった意味のスラング「ジャイブ・トーク」に由来すると考えられています。有名なジャズバンドリーダー、キャブ・キャロウェイが1938年に発表した辞書を通じて、この言葉を広めたとされています。

  • ヨーロッパへの伝播: 1940年頃、第二次世界大戦中にアメリカのGIs(米兵)によってリンディホップやジッタバグがヨーロッパに持ち込まれると、イギリスではこれらのスイングダンスの総称として「ジャイブ」という言葉が広く使われるようになりました。
  • 多様なダンスからの影響: ジャイブは、リンディホップ、スイング、ブギウギ、ロックンロールなど、様々なダンススタイルから影響を受けて発展しました。これらの要素が融合することで、ジャイブは独自のエネルギッシュなスタイルを確立しました。
  • 競技社交ダンスへの採用: 1968年、ジャイブは競技社交ダンスのインターナショナルラテン種目の正式なダンスの一つとして認められました。これにより、ジャイブはサンバ、ルンバ、パソドブレ、チャチャチャと共に、国際的なダンス競技会で重要な役割を果たすようになりました。競技ダンスとしてのジャイブは、非常に体力と精密さを要求されるダンスとして知られています。

技術用語解説

  • ジッタバグ: 1930年代にアメリカで流行したスイングダンスの総称で、リンディホップやジャイブなどのルーツとなったダンススタイルを指します。
  • インターナショナルラテンダンス: 社交ダンス競技会における5つの主要なラテンアメリカンスタイルダンス(サンバ、チャチャチャ、ルンバ、パソドブレ、ジャイブ)の総称です。

3. 日本におけるリンディホップの現状とコミュニティ

導入:20周年の節目を越えて、活気あるシーンを形成

日本におけるリンディホップの歴史は、1998年に競技ダンサーの山田浩が東京スイングダンスソサエティ(TSDS)を設立したことに始まります。2018年には日本上陸20周年を迎え、今日では全国各地に活発なコミュニティが形成されています。

コミュニティ活動とイベント

日本スイングダンス協会は、国内のリンディホップおよびスイングダンスの普及を推進する中心的な役割を担っています。同協会は、全国各地で様々なスイングダンスイベントの開催に協力しています。

東京の主要団体とイベント:

  • 東京スイングダンスソサエティ(TSDS): 東京のリンディホップシーンの中心的存在であり、あらゆるレベルに対応した毎週の「スイングサンデーズ」を開催しています。コミュニケーション、リード、フォローといったソーシャルダンスの基礎を重視した指導を行っています。
  • 東京リンディーホップアカデミー(TLHA): 自由な表現とヴィンテージダンスを尊重する理念を持ち、リンディホップを誰もが楽しめる大衆文化として広め、東京のスイングダンスレベル向上を目指しています。グループレッスン、ソロダンスクラス、プライベートレッスンを提供し、ウェディングダンスレッスンも行っています。
  • Mood for Swing: 日本最大級のリンディホップイベントと評され、ワークショップ、ライブバンド、コンテストなどが開催されます。
  • Swing Jack: 下北沢で月例のクラブイベントやリンディホップクラスを提供しています。
  • Chocolate Shake: 東京で毎月開催されるスイングダンスイベントです。

その他の地域のコミュニティ:

  • 東京や大阪以外にも、仙台、新潟、神戸といった都市にリンディホップのコミュニティが存在します。名古屋には「Lindy Hop Swingin’ Nagoya」があり、リード&フォローの基礎を重視した練習会やイベントを積極的に開催しています。

ファッションと文化

リンディホップは、ヴィンテージ風のドレスやスカート、洒落たズボンとシャツといったファッションも重視されることが多く、ダンスと共にその時代の文化を楽しむ側面も強く持っています。

4. 日本におけるジャイブの現状とコミュニティ

導入:モダンジャイブとエクササイズの融合

日本におけるジャイブは、主に「モダンジャイブ」として親しまれており、サルサとスイングの要素を混ぜ合わせた、楽しく習得しやすいペアダンスとして普及しています。

コミュニティ活動と展開

「ジャイブ・モーション」は、日本におけるモダンジャイブの普及を専門とする団体です。東京や横浜を中心にレッスンやイベントを開催し、このダンスを気軽に学ぶ機会を提供しています。

  • モダンジャイブのアクセシビリティ: モダンジャイブは習得のしやすさを重視しており、約20種類の基本的なパターン(6~8拍の長さ)を自由に組み合わせて踊ることができます。サルサやボールルームダンスのような厳格なフットワークとは異なり、シンプルな足の動きが特徴です。
  • 音楽の多様性: ポップス、ラテン、クラブミュージック、スイング、ブルースなど、明確な4拍子のリズムを持つあらゆる音楽に合わせて踊ることが可能です。これにより、幅広い層の音楽愛好家が楽しむことができます。
  • 世界的な人気: モダンジャイブはヨーロッパや英語圏の国々で非常に人気があり、イギリスやオーストラリアのシドニーなどでは毎週何万人ものダンサーが参加しています。
  • エクササイズとしてのジャイブ「Jiveeee(ジャイビー)」: 社交ダンスとしてのジャイブをエクササイズプログラムとして昇華させた「Jiveeee(ジャイビー)」が登場しています。これは、有酸素運動として高い負荷を持ちながらも、ダンス未経験者でも楽しく取り組めるように工夫されており、日本の現役ダンサーが全国でその魅力を伝えています。全日本チャンピオンらが監修し、インストラクター認定制度を通じて全国的な普及を目指しています。
  • 競技会でのジャイブ: 社交ダンスとしてのジャイブは、競技会でも盛んに踊られています。オンライン上では、日本の競技会でのパフォーマンス映像も公開されており、そのレベルの高さを示しています。

補足

「JIVE」という名称の日本の4人組コーラスグループも存在しますが、これはダンスのジャイブとは異なります。また、「日本ジャイブ」という美容室の名称も見られます。

5. リンディホップとジャイブの比較分析

導入:類似性と際立った相違点

リンディホップとジャイブは、その起源とエネルギッシュな性質において多くの共通点を持つ一方で、発展の経緯、ダンスの構造、文化的背景において明確な相違点を持っています。

類似点

  • アフリカ系アメリカ人コミュニティ起源: 両ダンスは共に20世紀初頭にアメリカのアフリカ系アメリカ人コミュニティで生まれました。
  • エネルギッシュなペアダンス: どちらも活気に満ちた、パートナーとのペアダンスであり、その躍動感で知られています。
  • スイングダンスの系譜: ジャイブはリンディホップを含む初期のスイングダンスから派生しており、広い意味での「スイングダンスファミリー」の一部として歴史的に繋がっています。
  • スイング音楽への適応: 両ダンスともスイング音楽に合わせて踊ることができます。

相違点

特徴リンディホップジャイブ
起源と進化1928年ハーレムで誕生した、より古い基盤となるスイングダンス。1930年代初頭にリンディホップなどのスイングダンスから派生。1968年に競技社交ダンスとして標準化された。
フットワークパターン6カウントと8カウントの両方のパターンを組み込み、リズムの複雑性と即興性が高い。主に6カウントパターンに基づいていることが多い。競技ジャイブは、リンディホップから8カウントのリズムを除去した形と評されることもある。
テンポと動きのスタイル幅広いテンポで踊られるが、パートナーとの弾力的なつながり、水平方向の伸び、そして大地に根差した感覚を特徴とする。一般的に速いテンポ(1分間に160〜176拍)で、顕著なバウンス、高い膝の持ち上げ、より垂直でコンパクトな動きが特徴。
コンテキストと標準化主に即興性と音楽性を重視するソーシャルダンスだが、競技の側面もある。特にインターナショナルラテンジャイブは、許容されるステップが厳密に規定された、高度に体系化された競技ダンス。ソーシャルダンスのモダンジャイブも存在する。
文化的用語「ジッタバグ」は、時に白人コミュニティでリンディホップを指す言葉として使われた。「ジャイブ」という言葉自体が、当初はスラングの含意を持っていた。

肯定意見と否定意見(ダンスの多様性として)

これらの相違点は、どちらかのダンスが優れているというわけではなく、それぞれが異なる楽しみ方と価値観を提供していると捉えられます。

  • 肯定意見:
    • リンディホップ: 即興性、パートナーとの自由なコミュニケーション、多様なリズムパターンが、ダンサーに深い表現の自由と音楽との一体感をもたらす。ヴィンテージカルチャー全体を楽しむことができる点も魅力。
    • ジャイブ: 競技ダンスとしての高い技術と表現力、そしてその活気あるテンポがダンサーに挑戦と達成感を与える。モダンジャイブの習得のしやすさ、幅広い音楽への適応性は、入門者にとって魅力的。
  • 「否定」意見(別の視点):
    • リンディホップ: ルールが少ない分、初心者にとってはどこから始めれば良いか分かりにくいという声もある。
    • ジャイブ: 競技ダンスのジャイブは、その厳格なステップと高速な動きが、一部のダンサーにとっては敷居が高いと感じられる場合がある。

6. 両ダンスの文化的意義と現代的展開

導入:過去から未来へ繋がるダンス文化

リンディホップとジャイブは、単なるダンスのジャンルを超え、深い文化的意義を持ち、現代においても多様な形で進化を続けています。

文化的意義

  • アフリカ系アメリカ人の遺産: 両ダンスは、アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人の創造性と文化の豊かな遺産を体現しています。彼らのリズム感、即興性、そして逆境の中での喜びの表現が、ダンスの根底に流れています。
  • 社会交流とコミュニティ形成: どちらのダンスも、人々が音楽と動きを通じて繋がり、新たな友人を作り、コミュニティを形成するための強力なツールとなっています。性別や年齢、背景に関わらず、誰もが参加できる包括的な空間を提供しています。
  • 表現の自由: 特にリンディホップは、型にはまらない個人の表現とパートナーとの即興的な対話を重視し、ダンサーに自己表現の自由を与えます。
  • 歴史の継承: ヴィヴィッドな形で過去の音楽やファッション、ライフスタイルを現代に蘇らせ、歴史的な時代への敬意を払う機会を提供します。

現代的展開

  • グローバルコミュニティの拡大: 世界各地でリンディホップとジャイブのイベント、ワークショップ、キャンプが開催され、国境を越えたダンサーの交流が活発に行われています。特に「リンディエクスチェンジ」のようなイベントは、ダンスのアイデアやムーブメントを共有する場となっています。
  • ルーツへの再認識と尊重: 近年、グローバルなリンディホップコミュニティでは、そのアフリカ系アメリカ人のルーツを再認識し、尊重する動きが活発になっています。「Black Lindy Hoppers Fund (BLHF)」や「Collective Voices For Change (CVFC)」のような組織は、黒人リーダーシップを支援し、包括性を促進し、ダンスの文化的歴史を保存することに専念しています。
  • 多様な音楽ジャンルへの適応: モダンジャイブは、ポップスやクラブミュージックといった現代の音楽にも適応し、より幅広い聴衆にアピールしています。
  • ダンスエクササイズとしての進化: 「Jiveeee(ジャイビー)」のように、社交ダンスの動きを健康維持やフィットネスに応用するプログラムも登場し、ダンスの新たな可能性を切り開いています。これにより、競技人口の減少に悩む社交ダンス業界に新たな顧客層をもたらすことが期待されています。

参考文献